【建築士の仕事】意匠設計と構造設計の違い 

2022-05-20

建築士の仕事は「意匠設計」と「構造設計」に分類される

建築工事は目的や規模などは様々ですが、その全てが何枚もの設計図をもとに進められているという点では共通しています。
そして、その全ての建築物の元になる設計図を作成するのが建築士の仕事です。
建築士による設計図の作成とひとくちに言っても、その業務は大きく「意匠設計」と「構造設計」の二つに分かれており、細部に亘るまで分業化されています。
建築士の仕事に対する理解を深めるためには、それぞれの業務の特性を知ることがとても重要となってきます。
そこで今回は「意匠設計」と「構造設計」の業務内容と、それぞれの違いについてみていきましょう。

そもそも建築設計とはどのような仕事なの?

「意匠設計」や「構造設計」についてみていく前に、建築設計とはどのような仕事であるかをおさえておきましょう。

建築設計とは、その名の通り建築の設計図を作成することです。
建築設計の業務は大きく分類すると、「意匠設計」「構造設計」「設備設計」の3つに分かれています。
「意匠設計」は建築物の間取りやデザインの設計を指します。
「構造設計」は地震などが発生しても倒壊しないように、建築物の構造の強度を確保するための設計です。
「設備設計」はその建築物を利用する人が内部で快適に過ごせるように、空調や音響、光や配管などの設備のを設置するための設計です。
一般的に二級建築士や一級建築士が携わるのは、「意匠設計」と「構造設計」になります。

「意匠設計」の仕事内容はどんなもの?

建築物のデザインを手掛ける「意匠設計」。
「意匠設計」は一見非常に華やかなイメージがありますが、具体的にはどのような仕事を行っているのでしょうか。
詳しくみていきましょう。

「意匠設計」の役割とは?

「意匠設計」の主な役割は、先ほど述べた通り意匠設計図の作成です。
「意匠設計」の担当者に求められるのは、建築物を実際に施工する上で工事を滞りなく行う事が出来、さらにデザイン性の高い図面を作成する能力です。
「意匠設計」において最も重要なのは、その建築物がどのような目的でどんな時に利用されるのかを考えて、図面に落とし込んでいくことです。
建物の物理的な耐久を持たせるために構造計算を行うのは、「構造設計」の役割なので「意匠設計」には求められません。
基本設計図を作成した後に構造や設備の設計が行われるので、それを経た後、最終段階で「意匠設計」担当者は設計図が予算と整合性が取れているか、建築基準法に違反していないかの確認を行い、正式な設計図を作成します。
建築物の設計において最初から最後まで責任を持って携わるため、「意匠設計」は設計の総監督の役割を担っていると言えるでしょう。

「意匠設計」の仕事①基本設計図を作成する

「意匠設計」の仕事は「建築物を建てたい」という施主から依頼によって始まります。
そして依頼を受けた後、最初に行うのが基本設計図の作成です。
基本設計図の作成を行うためには施主と打合せを重ねて、建築物がどのような用途で使用されるかやどのようなこだわりを持っているかを詳細にヒアリングする必要があります。
この段階では詳細部は考えずに、施主とイメージのすり合わせを行うことが大切なポイントです。
平面図やパース図、立断面図などを作成して、施主の希望に沿った設計図の作成を目指します。

「意匠設計」の仕事②構造設計や設備設計とすり合わせを行う

基本設計図を作成した後に行うのが、構造設計担当者や設備設計担当者とのすり合わせです。
建築物は意匠性だけを考慮して設計すると、必ず構造上の欠陥が生じたり配管や配線がうまく配置できないといった問題が起きてしまいます。
実際に施工業者により建設工事が開始された後に問題が発生してしまうと大変な事態となってしまうため、そのような事態を回避するためもすり合わせは必要な仕事です。
意匠設計図をもとに構造設計図と設備設計図を作成してもらい、構造的な不備がないかや配管、配線が可能であるかを確認することが大切です。

「意匠設計」の仕事③実施設計図を作成する

「構造設計」や「設備設計」とのすり合わせが完了したら、実施設計図の作成を行います。
実施設計図とは、施主の希望通りの基本設計が完成した後に作成される、詳細な設計図を指します。
実施設計図は施工業者によって実際に施工が行われる際に必ず必要な図面となるため、より緻密で正確な図面作成が求められます。
壁厚や天井高は詳細な寸法を明記し、どの場所にどのような建設資材を使用するのか、各部位の納まりはどのようになるのかなどを細かく記載していきます。
実際に施工が行われるときに現場が混乱することのないよう、詳細まで描き込む事が必要です。

「意匠設計」に求められるスキルとは

「意匠設計」の最大の特徴は、目に見える部分の設計を行うという点です。
建築物のデザインや間取りの設計に関しては、すべて意匠設計の仕事となるため、美的センスや空間把握能力、イマジネーションは必要不可欠だといえるでしょう。
また完成した基本設計図を施主に納得させるためには、提案力やコミュニケーション能力も重要となります。
他には採光や空気の流れなどについて、細部にまで配慮できることも大切です。

「意匠設計」に携わる建築士の年収は?

華やかでクリエイティブなイメージがある「意匠設計」の仕事ですが、年収はどのくらいなのでしょうか。
「意匠設計」は、施主から依頼を受けて業務に取りかかります。
依頼を受けた際に様々な方面からの提案が出来なければ、依頼自体がキャンセルとなってしまうこともあり得るため、日頃から建築に関する勉強を欠かさず、知識をアップデートすることが求められます。
そうかと思えば、施主との打合せを重ねてある程度の方向性が決まった後は、設計図面の作成に打ち込む日もあります。
様々なスキルが求められる「意匠設計」の平均年収について見てみましょう。

平均年収は約480〜500万円程

「意匠設計」に携わる建築士の平均年収は約480〜500万程度だと言われています。
日本の平均年収は大体430万円程度とされているため、平均年収よりもやや高いといったところでしょうか。
誰にでもできる仕事ではなく、高度な専門知識が求められる仕事のため、このような結果となりました。
それでは「意匠設計」に携わる建築士が年収を上げるためには、どうすれば良いのでしょうか。

高収入を実現する一番の方法は転職

現在よりも良い待遇の企業へ転職することができれば、年収も一気にアップするでしょう。
特に住宅メーカーや大手ゼネコンなどの平均年収は約600〜700万円程度なので、「意匠設計」に携わる建築士としての平均年収はトップクラスであると言うことができます。
中小規模の設計事務所に勤めている場合は、少人数で対応する必要があるため、ひとりあたりの業務負担が多くなり、勤務時間が長い割には収入が低い状態になることが多くあります。
その点、住宅メーカーや大手ゼネコンであれば業務内容が細分化されており、建築士ひとりに対する業務負担は減ります。
もちろん、誰でも簡単に転職ができるわけではありません。
転職によって高収入を目指すには、相応の経験や資格などが必要となります。

「構造設計」の役割と仕事内容とは?

「構造設計」の主な仕事は、その建築物がどの程度の耐久力を持っているのかを考慮の上、建築基準法に定められた耐用年数を満たした構造計算を行うことが主となります。
「構造設計」の役割と仕事内容についてみていきましょう。


「構造設計」の仕事◎建物の安全性を満たす構造計算を行う

「構造設計」に携わる建築士の最も大切な仕事は、地震や積雪などの災害により建物が倒壊することを防ぎ、安全性能を確保することです。
そのため、「構造設計」の主たる業務内容は、建築物の土台や骨組みの「構造設計」を行った上で構造設計図を作成することにあります。
「構造設計」のその他の仕事としては、補強設計や耐震診断、設計監理などで、建築物の構造と安全を確保することです。
「構造設計」に携わる建築士は、基本設計図をもとに建築物の間取りや立面断面、コストなどの諸条件を考慮に入れつつ、柱や梁の形状や配置を決めていきます。

「構造設計」に求められるスキルとは

「構造設計」は表立って目にすることがない箇所の設計を行う場合が殆どですが、建築物の安全性を担保するという非常に重要な役割を担っています。
「構造設計」に不備があると建築物の耐久性が下がり、倒壊してしまう危険性があります。
そのため建築物が受ける様々な負荷を考慮し、柱や梁の太さや位置、鉄筋の種類や本数などを綿密に計算しながら構造設計を行っていく必要があります。
以上のことから「構造設計」に必要なスキルとは、高度な分析力はもちろん、構造力学や物理学への深い理解であるということができます。

建築の複雑化に伴い「構造設計」の出番は増加傾向に

安藤忠雄氏や隈研吾氏のような有名建築家は「意匠設計」を専門としています。
確かに建築士の仕事の花形は「意匠設計」という風潮がありますが、近年は構造技術の進展や材料の開発が進み、それに伴い「構造設計」の業務も注目されてきています。
以前は建築物といえば四角く重厚なものというイメージがありましたが、近年の技術や工法の進展によって、様々な材質で軽やかなあらゆる形状が実現可能となりました。
このように建築物が複雑化している現在の状況において重要となるのは、「意匠設計」と「構造設計」に携わる建築士が綿密に連携を取りながら業務を行うことです。
優れた建築物を建てるためには「意匠設計」と「構造設計」の双方の力が必要となってきます。
「構造設計」の業務においては建物の安全性を確保することが非常に重要となってきます。
地震などの震災に備える「構造設計」としては、以前は「耐震構造」設計を行うことのみが求められてきましたが、現在は研究が進み、地震の揺れを受け流す「制震構造」や地震の揺れを建物に伝えない「免震構造」が生まれました。地震への備えに関しては、2016年に発生した熊本地震において、直下型の長周期地震である「長周期パルス」と呼ばれる地震動記録が観測されるなど、今後は更なる研究が進むと考えられています。
従来にはない形状の実現や構造方法の多様化によって、「構造設計」に携わる建築士の出番はより多くなってきており、「構造設計」を行う際にも高度なスキルが求められるようになってきているという現状があります。

意匠設計と構造設計の違いとは?

それでは「意匠設計」と「構造設計」の具体的な違いはどのようなところにあるのでしょうか。
詳しくみていきましょう。

「意匠設計」と「構造設計」の違い①客層が異なる

「意匠設計」に携わる建築士の打合せの相手は、エンドユーザーである施主が主となります。
そのため専門用語を極力使用せずに、一般の人もわかるようにできるだけわかりやすい言葉で説明することが求められます。
一方で、「構造設計」に携わる建築士は意匠設計者が相手になります。
専門用語を用いての会話が成立つので、打合せはスムーズにいく場合が多いといえるでしょう。
しかしながら「構造設計」だけの専門用語が存在するため、その点は注意が必要です。

「意匠設計」と「構造設計」の違い②設計図の作成過程が異なる

「意匠設計」は定性的な説明が可能となります。
例えば、「和らぐ」や「気持ちいい」といった人の感じ方に軸を置いてデザインを決めていくことができます。
0から想像力を膨らまして形づくっていくことが「意匠設計」の特徴ともいえるでしょう。
その一方、「構造設計」は定量的であるということができ、アウトプットする際には数量が必ず紐づいてます。
0から形作っていくのではなく、「意匠設計」に携わる建築士が作成した基本設計図をもとに適切な構造設計図を作成していきます。

意匠設計と構造設計の違い③設計に携わる期間が異なる

「意匠設計」に携わる建築士は、最初期から建築物に携わり、竣工後のメンテナンスまで一貫して管理監督を行います。
エンドユーザーである施主に対するアフターフォローも重要な仕事のひとつです。
そのため、どのような小さな建築物でも1年単位で携わることになるでしょう。
それに比べると「構造設計」に携わる建築士は、ひとつの建築物に携わる期間は短くなります。
基本的には、意匠設計者による基本設計図が完成した後に構造設計を行い、構造設計図の作成が終わるとその建築物に関わることはなくなります。

同じ設計でも仕事内容や求められるスキルは違う

いかがでしょうか。
「意匠設計」と「構造設計」では、仕事内容や求められるスキルが全く異なることが理解頂けたと思います。
建築設計に関する知識を深めて、ぜひ実際の業務に活かしてみてくださいね。

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